装着型サイボーグ“HAL”

シャルコー・マリー・トゥース病

病態

 シャルコー・マリー・トゥース病(Charcot-Marie-Tooth disease、以下CMT)は、1886年にCharcot,Marie、Toothの3人によって報告された最も頻度の高い遺伝子異常による末梢神経疾患の総称です。末梢神経の発達形成や機能維持などに関わる遺伝子の異常によって、末梢神経に障害が生じます。ヒトには約2万個の遺伝子が存在しますが、このうち末梢神経の構造タンパク(PMP22、MPZ、GJB1など)の遺伝子異常によってCMTが生じます。末梢神経障害のメカニズムは、原因遺伝子によって異なりますが、総じて、正常と異なる塩基配列をもった遺伝子により作られた異常なタンパクにより作られる、もしくは、影響をうける末梢神経が正常に機能できない状態となり、末梢神経障害が生じます。末梢神経には、脳からの「動かせ」という司令を、脊髄から筋肉に伝える運動神経、「熱い」・「冷たい」・「痛い」などの感覚を皮膚の感覚受容体から脊髄まで伝える感覚神経、血圧や消化管などの動きを調節する自律神経があり、それらが障害されるため、主には、四肢遠位部優位の筋力低下などの運動症状やバランス感覚の低下、感覚の鈍麻などの感覚症状が生じます。症状は年単位で緩徐に進行する。一般的には20歳頃までに症状に気づくことが多いのですが、60歳以降になり初めて症状に気づき、医療機関に受診し診断に至る例もあります。小児期の状況の問診にて、「子供のころから運動が苦手でかけっこや平均台をわたるのが苦手だった。」「子供の頃から足の形がみんなと違い小さかった。」などのエピソードを聞くことが多いです。CMTは遺伝子異常による疾患であるため、両親のいずれかに同様の症状がある、患者の子供に同様の症状があるなどで、軽症例は、運動が苦手な家系であるという思い込みから医療機関を受診されない例も多くあることが予想されます。一方で、遺伝性疾患といえどもCMTでは、de novo変異(いわゆる突然変異)により発症することも多く、家族歴がない症例も存在します。CMTの経過としては、基本的に生存期間に影響を与えるような障害はなく、重症度は様々ですが、運動障害、感覚障害などの障害を抱えながら、仕事を含めた日常生活を継続できることが多いです。

 

患者数

世界の患者数は約 260 万人と推定され,わが国でも 10.8 人 /人口 10 万人との報告があります。

現在、京都府立医科大学脳神経内科が事務局としてCMT患者登録システム(CMTPR)を運営しており、本邦におけるCMT患者さんの診療実態の把握のための研究を実施しています。以下のリンク先HPのCMTPRのバナーをクリックして登録が可能です(http://www.cmt-japan.com/)。 このCMTPRはCMTと診断を受けておられる患者さん自らが登録し、定期的にEmailにてリマインドされるアンケートにご回答いただくことにより、本邦のCMT患者さんの遺伝学的特徴、診療状況、社会的制度の利用状況、症状の重症度の変化を明らかにする目的があります。また新たな治療法が確立された際に、迅速に周知できるシステムとしても機能させる目的があります。

 

原因

これまでに100種類以上のCMT原因遺伝子が明らかになっていますが(https://neuromuscular.wustl.edu/time/hmsn.html)、原因遺伝子異常とCMT発症のメカニズムについては未だ詳細には解明されていません。

最も頻度の多い遺伝子異常はPMP22重複によるCMTで、CMT1Aという分類名で呼ばれます。CMT患者の約半数が本遺伝子異常によるといわれています。ついで、GJB1、MFN2、MPZ変異によるCMTが後につづきます。

・症状

  手や足部などの四肢遠位部の筋肉が 緩徐進行性に萎縮し、筋力低下が進行する運動症状と、四肢遠位部の感覚が鈍くなる感覚症状が主症状である。患者の多くは、足・足趾の変形(凹足)や足の筋力低下(スリッパが脱げやすい、段差につまずくなど)、特徴的な歩き方(「鶏歩」と呼ばれる、両大腿を大きく挙上し両趾先を垂らす歩き方)に気づき、もしくは指摘され、医療機関に受診することが多い。下肢の筋力低下や変形のために、足首の捻挫や骨折する症例もある。詳細な問診において、「子供の頃かけっこがかなり遅かった」「子供のころから足が小さかった」など、小児期から症状は出現していたことが明らかとなることが多い。また、症状の重症度には患者によって大きな幅があり、幼少期、場合によっては生まれたときにすでに歩行に支障をきたすなどの重度の運動症状が出現している場合もある。時には、目が見えにくい・音が聞こえにくいなどの症状( 網膜 や聴神経の障害)が合併したり、病気の進行とともに脊柱の変形を生じたりするなど多彩な症状を呈する場合もある。

 

治療薬

 現時点で保険適応のある治療薬はなく、これまでCMT1Aに対してアスコルビン酸(ビタミンC)の臨床試験が世界的な規模で実施されたが、有意義な結果は得られなかった。2022年現在、CMT1Aに対するPXT3003(バクロフェン,ナルトレキソン,ソ

ルビトールの合剤)の臨床試験など、いくつかの臨床試験は継続中である。

・治療方法

 治療薬が存在しないため、筋肉トレーニングなどのリハビリテーションが主となります。米国のCMTの患者会であるCMT associationがYouTubeにて、トレーニング方法の動画を公開しており参照ください

https://www.youtube.com/c/CMTAssociation)。

ロボットスーツHALによるリハビリテーション療法の有効性が示されており(Orphanet J Rare Dis. 2021;16(1):304.)、本邦では、2015年に医療機器承認され、2016年から歩行運動処置(ロボットスーツによるもの)として保険適用されています。

運動神経の障害が進行すると下肢遠位の筋萎縮により、足関節や足部の変形が生じ、歩行に支障が生じることがあります。装具を用いても、十分な効果がない場合は、,関節の安定性を図るために筋延長術や骨切り術などの整形外科手術が適応となる場合があります。


 

解説:能登祐一

京都府立医科大学附属病院 脳神経内科