装着型サイボーグ“HAL”

先天性ミオパチー

病態

先天性ミオパチーは骨格筋の筋線維に構造的な異常を認めることによって発症する遺伝性の筋疾患です[1]。通常は生下時~乳児期早期より筋緊張低下(体が柔らかくグニャグニャした感じがします:フロッピーインファント)と筋力低下を認め、一般的に緩徐進行性です。重症例はfetal akinesia syndrome (胎児期より全く動けません)を示す一方で、思春期や成人期に発症する軽症例までとその表現型は様々です[2]。

 

分類

歴史的に、骨格筋の筋病理組織における特徴的な所見によって大きく4つの病型に分類されてきました。①筋病理で筋線維内にネマリン小体を認めるミオパチーをネマリンミオパチー、②筋線維内にコア様の構造を認めるミオパチーをコアミオパチー、③筋線維の中心に核(中心核)を認めるミオパチーを中心核病(乳児重症型は筋管細胞(myotube)に似ているためミオチュブラーミオパチーと呼ばれます)、④筋線維のタイプ1線維(赤筋:遅筋)とタイプ2線維(白筋:速筋)の小径の大きさがタイプ1線維の方が小さいミオパチーを先天性筋線維タイプ不均等症と呼びます[2]。

 

患者数

先天性ミオパチーの本邦における正確な頻度は不明です。先天性ミオパチーの発症率は海外からの報告では10万人あたり1~4人程度です[3, 4]。

 

原因

先天性ミオパチーは遺伝性の筋疾患です。遺伝形式は原因遺伝子毎に常染色体優性遺伝、常染色体劣性遺伝、X染色体劣性(一部保因者女性も発症します)遺伝が報告されています。これまでにネマリンミオパチーの原因遺伝子としてNEB、ACTA1、LMOD3、KLHL40、KLHL41、TNNT3、TPM2、TPM3、CFL2、ADSSL1、KBTBD13、MYPN、TNNT1、RYR3の14遺伝子が知られています。ADSSL1とRYR3を除いて全ての遺伝子はアクチンフィラメント(細いフィラメント)の構造や制御に関わっています。本邦においてはADSSL1、NEB、ACTA1遺伝子異常の順に多く報告されています。

コアミオパチーの原因遺伝子としてRYR1、SELENON、MYH7、TTN、ACTN2、MEGF10、MYH2、CCDC78、UNC45B、TRIP4、NEB、ACTA1、KBTBD13、CFL2、TRIP4、TNNT1が知られています[5]。特にRYR1遺伝子異常はコアミオパチーの原因として最も頻度が高く、セントラルコア病というNADH-TR染色で筋線維の中心部が果物の芯(コア)状に抜ける特徴的な所見を呈します。またRYR1は悪性高熱症の原因遺伝子としても知られています。ハロタンなどの揮発性吸入麻酔薬やスキサメトニウムなどの脱分極性筋弛緩薬は悪性高熱症を誘発する可能性があり、RYR1遺伝子異常が疑われる先天性ミオパチー患者への使用は避ける必要があります。

中心核病はDNM2、BIN1、RYR1、SPEG、TTN遺伝子異常によって発症し、乳児重症型のミオチュブラーミオパチーはMTM1遺伝子異常によって発症します。先天性筋線維タイプ不均等症の原因遺伝子はTPM3、ACTA1、SELENON、TPM2、RYR1、TTN、MYH7、HACD1が知られており、TPM3が最も頻度が多く報告されています[2]。

 

症状

発症年齢は様々ですが、ACTA1遺伝子異常によるネマリンミオパチーやMTM1遺伝子異常によるミオチュブラーミオパチーの患者の多くは出生時より重度の筋力低下を認め、人工呼吸器管理や経管栄養が必要となります。一方でADSSL1遺伝子異常によるネマリンミオパチーの多くの患者は小児期、もしくは思春期や成人期に握力低下や下肢の筋力低下で発症します。一般的に先天性ミオパチーの患者では乳児期から小児期に運動発達の遅れ、顔面筋罹患、眼瞼下垂、眼球運動障害、高口蓋、嚥下障害、呼吸障害、側弯症を認めますが、その程度や頻度は原因遺伝子毎に異なります。例えば、RYR1遺伝子とSELENON遺伝子はともにコアミオパチーの原因遺伝子ですがSELENON遺伝子異常の患者では顔面筋罹患や呼吸障害が多くみられるものの、RYR1遺伝子異常の患者では顔面筋罹患や呼吸障害の頻度は少ないといった特徴があります。DNM2遺伝子異常による中心核病やTPM3遺伝子異常による先天性筋線維タイプ不均等症では眼瞼下垂の頻度が高いことが知られています。通常先天性ミオパチー患者に知的な遅れは認めません。血清中のCK値は正常より低い例から軽度の上昇を認める例と様々です[2]。

 

治療薬

現在、先天性ミオパチーの根本的な治療法はありませんが、近年いくつかの遺伝子異常による先天性ミオパチーで遺伝子治療の治験も始まっています。特にミオチュブラーミオパチーの患者において、アデノ随伴ウイルス(AAV8)ベクターを介した遺伝子治療の臨床試験(ASPIRO、NCT03199469)が2018年に始まっています。未発表データではありますがAAV8ベクターで遺伝子治療された一部の患者で臨床的に劇的な改善を認めたという報告があります。一方でAAV8ベクターによる遺伝子治療を受けた患者で致死的な肝障害が3例で認められており、有効量と安全に使える量の検討が不可欠です[6]。今後の報告が期待されます。

 

治療方法

患者の各症状に対しての支持療法である人工呼吸器管理、経管栄養、理学療法などの対症療法が中心です[7]。


 

解説:小笠原真志

公立昭和病院 小児科 医長

国立精神・神経医療研究センター 疾病研究第一部 研究生

 

[1]       Claeys KG. Congenital myopathies: an update. Dev Med Child Neurol  2020;62:297-302.

[2]       Ogasawara M, Nishino I. A review of major causative genes in congenital myopathies. J Hum Genet  2022.

[3]       Amburgey K, McNamara N, Bennett LR, McCormick ME, Acsadi G, Dowling JJ. Prevalence of congenital myopathies in a representative pediatric united states population. Ann Neurol  2011;70:662-5.

[4]       Pagola-Lorz I, Vicente E, Ibáñez B, Torné L, Elizalde-Beiras I, Garcia-Solaesa V, et al. Epidemiological study and genetic characterization of inherited muscle diseases in a northern Spanish region. Orphanet J Rare Dis  2019;14:276.

[5]       Ogasawara M, Nishino I. A review of core myopathy: central core disease, multiminicore disease, dusty core disease, and core-rod myopathy. Neuromuscul Disord  2021;31:968-977.

[6]       Lawlor MW, Dowling JJ. X-linked myotubular myopathy. Neuromuscul Disord  2021;31:1004-1012.

[7]       Wang CH, Dowling JJ, North K, Schroth MK, Sejersen T, Shapiro F, et al. Consensus statement on standard of care for congenital myopathies. J Child Neurol  2012;27:363-82.