装着型サイボーグ“HAL”

SBMA 健康診断で異常あり Sさん

ケネディー???

「血液検査で筋肉が異常に壊れている所見がありました。神経病の可能性があるので神経内科を受診してください。」

20年ほど前、30代半ばに受けた会社の健康診断で産業医から告げられました。総合病院の神経内科を受診し、「脊髄性筋萎縮症かケネディー・オルター・サンの可能性があります」との診断を受けました。

「セキズイセイ?…ケネディー??…」初めて聞く言葉に驚き、さらに私を動揺させたのは「どちらも原因不明で治療方法はありません。詳しいことは私にはわかりません。」との医師の説明でした。

2年後、遺伝子検査で球脊髄性筋萎縮症の確定診断を受けましたが、その頃はまだスキーなどもできており、「体力が落ちてきたなあ、運動不足か?」くらいで、顕著な自覚症状もありませんでした。

その当時は、大学病院の神経内科医でも球脊髄性筋萎縮症に詳しいわけでもなく、図書館やインターネットで探しても情報はほとんど見つかりません。患者会やSNSもなく病友を探す手段もありませんでしたので、非常に孤独で不安でした。

 

静かに、そして確実に病気は進む

その後、徐々にできないことが増え、40代半ばで杖を使い始めました。発症から10年が経っていました。

※初期症状としてできなくなったこと

・スポーツ

・歩行

・階段の昇降

・座位からの起立

 

さらに歩行中の転倒、体力低下、バスや電車に乗れない(車内で立ち続けること、つり革をつかみ続けること、バスのステップや駅階段を昇り降りすることができない)、長く話せない(構音障害)、書字やお辞儀ができないなど顕著な症状が現れ、仕事にも支障がではじめ、発症から20年で会社を退職しました。

 

仕事上で支障をきたす症状の現れ

・歩行中の転倒

・公共交通機関が利用できない

・長く話せない(構音障害)

・書字困難

・お辞儀姿勢

 

現在は、なんとか杖で自立歩行し、生活環境を工夫しながら日常生活を送ることができています。身体障害者手帳は2級です。

 

HALとの出会い

SBMA患者さんの間で、HALが話題に出始めたのは2005年頃だったと思います。当時は「HALを装着した男性が重量物を楽々と持ち上げる映像」が紹介されていたので、まさか自分が11年後にHALを使うことになるとは全く想像していませんでした。

その後、2012年1月に東京国際フォーラムで開催された「HALといっしょに未来を語ろう」に参加させていただく機会を得て、遠目でしたが初めてHALの実物を見ました。このイベントと懇親会で、筑波大学の山海先生とNHO新潟病院の中島先生がワインを片手に、ユーモアたっぷりにHALの未来を語ってくださいました。

「電動車いすの代わりにHALを装着して自由に歩けるようになるんじゃないか?」「SBMAにも治療効果があるんじゃないか?」とワクワクしたのを今でもはっきり覚えています。

2013年にSBMAの患者会「SBMAの会」を設立し、2016年には、患者会として医療用HAL下肢タイプ(以下、「HAL下肢タイプ」)についてNHO新潟病院の中島先生から直接詳しいお話を聞く機会に恵まれました。そして2016年8月にNHO新潟病院で、はじめてHAL下肢タイプによる歩行運動療法を受けました。

 

歩行運動療法ってどうなの?

「リハビリ」というと「辛い」「苦しい」「痛い」といった先入観を持っていましたし、初めての入院ということもあり非常に不安がありました。しかし、いざ入院してみると中島先生をはじめ、理学療法士など職員の皆さまは、とても親切かつ丁寧で、安心して治療を受けることができました。

そして、HAL下肢タイプによる歩行運動療法は、「辛い」などといったことは全くありません(治療前後に行う2分間歩行テストは少し辛いです)。むしろ、発症前はごく日常だった「サッサと気持ちよく歩く感覚」や、「スポーツをしたあとの清々しい疲れ感」を数十年ぶりに感じることができ、1クール目の治療を受けている間に“可能性”を実感することができました。

私は、2021年7月までに13クール、136回HALを使った治療を受けました。

並行してHAL単関節タイプを使用して、腕のリハビリ(作業療法)も行っています。

 

HALとともに5年

2分間歩行テストは、4クールまでは歩行距離が伸び(対1クール改善率は+43%)、その後、13クール目まで歩行距離を維持することができています(対1クール最大改善率は+62%)。

残念ながら、持久力が戻った、筋力が戻ったという効果は感じられません。しかし、明らかな変化もあります。転倒しなくなったことです。

HALをはじめる前は、数ヶ月に1回程度の頻度で、足がもつれたり地面に足がつまづいたり、膝折れしたりして転倒していましたが、HALを使いはじめてからこのような転倒は一回もありません。

5年が経過した今までに、「あぁ、また症状が進行しちゃったなぁ」という感覚もほとんどありませんし、1日に歩行可能な距離や、連続して歩行できる距離もあまり短くなっていません。足の太さも細くなっていません。良くはなっていないまでも、筋萎縮の進行を抑制できている可能性はあると思います。

何より「治療しているんだ!」という前向きな気持ちにもなり、精神的にもとても良いです。これからも可能な限りHALの治療を続けていきたいと思っています。

 

未来のHALへの期待

日常生活で歩行をアシストしてくれるHALができれば良いと思っています。電動車いすのような歩行支援機器です。行動範囲が格段に広がると思います。

以前私は、HALの開発者である山海先生と直接お話をする機会があり、その際に、山海先生へ1つお願いをしました。

「私は、もう一度スキーがしたいです。」

「スキーができるHALを開発してください。」

山海先生は笑いながら「多くの患者さんのご要望になんとかお応えしたい」と仰ってくださいました。この山海先生のお言葉を信じて、今後もがんばっていこうと思っています。本当に信じています!

注意事項

当サイトは、装着型サイボーグHALによる治療を受けられる方、およびご家族の方向けに情報を掲載しています。
医学的な判断、アドバイスを提供するものではないことをご了承ください。
HALの治療を受けるに当たっては、医師の指示に従ってください。

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